armが提唱するiSIMとは?eSIMとの違いなど
iSIMはまだまだ新しい技術・規格ですが、armの公式ブログなどを元にできる限りその内容をまとめました。
armはスマートフォンやIoTデバイスの心臓部とも言える半導体(チップ)の設計を手がけるイギリスの会社で、2016年にソフトバンクグループが3.3兆円で買収しました。
このarmが2018年に発表した新しいSIM(Subscriber Identity Module)のカタチがiSIMです。iSIMはまだまだ新しい技術・規格ですが、armの公式ブログや eSIM & iSIM for Dummies というeBookを元にできる限りその内容をまとめました。
iSIMとは
iSIMは integrated SIM の略で、SoC(system on a chip)といわれるCPUなど様々なパーツを一つに詰め込んだチップセット内にSIMも入れ込まれた(integrateされた)カタチです。
一般的なスマートフォン向けSoCにはCPUやGPU、WiFiモジュールなどが搭載されており、ここにSIMのモジュールも載せてワンセットにしたもの、と捉えることができます。
armではこのiSIMをKigen SIM SolutionsというIoT向けSIMソリューションSuiteの一つとして開発、提案しています。
iSIMはeSIM同様、契約者の認証といったSIMの基本的な性質や性能は保ちつつ、様々な改良点を持った新しいSIMの規格の一つです。
eSIMとiSIMの共通点
eSIMとiSIMは兄弟のようなもので、様々な共通点を持っています。ここでは従来の物理(removable)SIMと比較した場合に、eSIMとiSIMが共通して持つ特徴や優位性を列挙します。
リモートプロビジョニングに対応
SIMに書き込まれている通信事業者のプロファイル(情報)をインターネット経由でダウンロードしたりアップデートしたり、変更することができる「リモートSIMプロビジョニング(RSP)」が可能です。これによりSIMを物理的に差し替えることなく、接続する通信事業者を切り替えることができ、グローバルスケールにおいても遠隔からデバイスを管理することが可能になります。
このカード自体の差し替え不要でプロファイルをリモートから書き換えることができる仕組みが今までの物理SIMとeSIMやiSIMといった埋め込み型SIMとの一番大きな違いかと思います。
コスト削減
プロファイルのインストールや管理が全てデジタルになることにより、物理的なSIMカードの製造や輸送、保管・管理といったサプライチェーンコストやオペレーションコスト、そしてそれに付随したマネジメントコストを大幅にカットすることができます。
また、プラスチック含めSIMカードの製造において必要であった材料がほぼ全て不要になるため、eSIMやiSIMはよりエコフレンドリーなソリューションとも言えます。
物理的なダメージ耐性
従来のSIMカードはユーザーが取り外し可能で、また取り外した場合はSIMの基板部分がむき出しになるため、落としたり衝撃等の力が直接加わるといった物理的なダメージを受ける可能性があります。対してeSIMはiSIMは端末の内部に埋め込まれているため、基本的にはユーザーが簡単に取り外すことができません。そのため外的ダメージを受けることはほぼありません。
物理的なセキュリティー耐性
eSIMもiSIMも端末内部に組み込まれているため、紛失することも、盗まれる可能性も非常に低いです。このようにPhysical Securityの観点からも従来のリムーバブルなSIMよりも安全性が高いと言えます。
アドバンスドハッキング耐性
いわゆるソフトSIMなどのソフトウェアベースに作られたSIMに比べ、物理基板(回路)にハードウェアとして載ったSIMはよりセキュアであり、デバイスメーカーや通信事業者の厳格なセキュリティー要求を満たす安全性を備えています。
eSIMとiSIMの相違点
ここからはeSIMとiSIMの違いについて取り上げます。再度になりますが、eSIMはSIMのモジュールとチップセットが部品として別れているのに対し、iSIMはSIM機能をチップセット上に格納した、別途プロセッサーなどに依存しないアーキテクチャーです。
サイズ
eSIMのサイズは5mm x 6mmで、nano SIM(12mm x 8.8mm)のおよそ半分という小さいものですが、iSIMはそれよりもはるかに小さく、ナノミリレベルになるそうです。これによりデバイスメーカーはスマートフォンなどでスペースを大幅に節約できるようになります。mini --> micro --> nano と物理SIMカードのサイズも小さくなってきていることを見てもわかるように、端末内の限られたスペースを有効に活用する上で、SIMのコンポーネントサイズは重要です。
モジュールコスト
そもそもeSIMやiSIMは物理的にSIMカードを輸送したり保管するコストがかからないため、サプライチェーンコストやマネジメントコストを大幅に削減することができますが、さらにiSIMに関してはサイズが非常に小さく使われるコンポーネントが少ないため、結果として(eSIMよりも)製造コストが抑えられるとarmは主張しています。ユニットごとの製造コストを見るとその差は些細なものかもしれませんが、IoTのように膨大な数が対象となると塵も積もれば...ということで大きな差が生まれる可能性があります。
電力消費
armの主張では、iSIMはeSIMと比べより消費電力が小さいようです。リチウムイオン電池はじめモバイル端末向けバッテリー技術が年々改良されているとはいえ、限られたバッテリー容量においては各モジュールの消費電力も重要なファクターです。
SIMのこれから
これまで述べたようにリモートSIMプロビジョニングはじめeSIM & iSIMといった埋め込み型SIMが持つ有利性は明らかで、すでに始まっている物理SIMから埋め込み型へのシフトはこれからも確実に進むはずです。
IoTデバイスに関してはサイズやコストといったファクターが特に重要なため、埋め込み型SIMの採用が今後も指数関数的に増えると予想します。
また、2019年6月に上海で行われたMWC(Mobile World Congress)でGSMA(携帯通信業界団体)の中の人と個人的に会話した経験から、スマートフォンなどのモバイル端末に関してはSIMモジュールのSoC上へのシフトがこれからさらに進むことはほぼ間違いなさそうです。
iSIMというワードが一般的になるのか、eSIMというワードがiSIMも含めた広義の意味として使われていくのかはまだわかりませんが(個人的な予想としては後者)、SIMのカタチとしては今後チップセット上に載るintegratedなアーキテクチャーがより普及すると思います。
ちなみにGSMAの担当者(Head of SIM)の話によると、integrated SIMの規格も今年中あるいは来年早々にもGSMAとして標準化が完了する予定のようです。
integratedなSIMはarmがIoT向けSIMソリューションの一部としていることからもわかるように、メインの市場としてはあくまでIoTかとは思いますが、デバイスメーカーとしても確実に方向性としては埋め込み型SIMに向かっていくと思います。