Truphoneが40億円超を調達、eSIMプロビジョニング数も400万に

Truphoneが既存株主から3000万ポンドを調達、評価額はおよそ550億円に。

Truphoneが40億円超を調達、eSIMプロビジョニング数も400万に

イギリス拠点のグローバルMVNOであり、Apple認定のプリペイドeSIMサービス提供事業者のTruphoneは、2020年4月14日付けの自社のプレスリリースで、新たに3000万ポンド、日本円で約40億円を調達したと発表しました。今回の調達ラウンドでの同社の評価額はおよそ550億円となります。

これまでの資金調達

Truphoneはすでに過去に複数回の資金調達を行っています。創業は2006年で、2008年までにStraub Ventures、Burda Digital Ventures、Eden Ventures、Independent News & Media、Wellington Partnersなどから60億円程を調達、その後2013年にチェルシーFC(サッカークラブ)などを保有するロシア人の富豪ロマン・アブラモヴィッチ氏(が保有する投資会社)がリードするラウンドで3億ポンドの評価額で7500万ポンドを調達しました。その後、2017年にもアブラモヴィッチ氏保有のMinden WorldwideとVollin Holdingsという2つの投資会社から3億7000万ポンドの評価額で2億5500万ポンドの大型調達を行っています。ただこれはその数年前(2013 - 2014年頃)に行っていた2億4000万ポンド規模の借入(debt)を完済する目的であり、調達したキャッシュの大部分は返済に回ったと思われます。さらにTruphoneは翌年2018年にも主にMinden WorldwideとVollin Holdingsという同じ2社から3億8600万ポンドの評価額で1800万ポンドを調達しています。この時点でアブラモヴィッチ氏は自身の投資会社を通してTruphoneの80%以上のシェアを保有しているようで、実質ロシア人オリガルヒがコントロールする会社と言えそうです。

そして今回発表のあった追加の3000万ポンドの調達ですが、これもTechCrunchの記事によると前回、前々回同様大部分はアブラモヴィッチ氏の保有する投資会社Vollin HoldingsとMinden Worldwideによるものだそうです。

やや不安な調達事情とその背景

今回含め過去数回の調達は少しではありますがダウンラウンド、評価額を下げての調達となっていますし、アブラモヴィッチ氏保有の投資会社からの調達スキームも(その道の専門家でないので詳しくわからないですが)いろいろな記事を読んでいる限りちょっとイレギュラーな感じがしました。そもそもVollin HoldingsとMinden Worldwideは共に通称タックス・ヘイヴンと言われるイギリス領ヴァージン諸島に登記されており、少なくともVollin Holdingsに関してはどうもTruphoneへの投資をメインとするエンティティーのような気配があります。少なくともIT業界のニュースで昨今よく見かけるスタートアップの資金調達や資本提携とはかなりニュアンスが異なる調達であることは間違いなさそうです。

また、Truphoneがこの調達をいつから準備していたかは分かりませんが、もし新型コロナウイルスの影響によるキャッシュフローの不透明さが調達決定の背景にあるとすれば、こちらも少し不安です。新型コロナウイルスの影響はかなり長引くと予想されており、人々がまた海外旅行をこれまでのようにできるのはまだまだ先になりそうです。それまでキャッシュアウトすることなく、トラベル関連事業以外で収益を上げていくことができるかがキーになります。

今後はさらにeSIM関連に注力

2018年9月に初めてのeSIMプロビジョニングを行ってから、同社はこれまでコンシュマー向けとIoT向け合わせて400万以上のeSIMのプロビジョニングを達成し、デイリーで2万eSIMがダウンロードされているということです。現在、TruphoneのリモートSIMプロビジョニングを利用するモバイルネットワーク事業者はグローバルで25社。そしてプロビジョニングサイト(拠点)もイギリスとオランダの2箇所に。MVNO事業については2019年9月で損益分岐点達成、今後は特に北米とアジアパシフィック地域に注力する計画のようで、個人的には特にアジアでのプレゼンスやサービス品質向上に期待したいところです。

今後Truphoneはさらにソフトウェア開発を加速させ、通信事業者向けにeSIM周りの総合的な技術スタック(ソフトウェアスイート)を提供していくということで、上記のリモートSIMプロビジョニングサービスはじめ、SIM OSと呼ばれるeSIM向けOSやEntitlement Serverと呼ばれるMNO向けのソリューション、eSIMソフトウェアなど、通信事業者をeSIMサービス提供の様々なレイヤーで支援する計画のようです。

前述の新型コロナウイルスの旅行業界への影響もありますし、Truphoneとしては通信事業者、ベンダー、あるいはIoT事業者向けに、自社の持つeSIM技術を使ってAWSのようなプラットフォーム的なポジションを狙っているような気が個人的にはしています。